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ゆるりとショートショートを書いていきます。

VTR,ウォッチング!

 「VTR、ウォッチング!」は、視聴者が投稿する様々な疑問に、一般人へのドッキリを通して回答していくというこれまでにないバラエティ番組である。視聴率は常に15%を超え、満を持してこの春、深夜番組からゴールデンに進出してきた。
 番組のMCは、国民的人気タレントであるエリー。彼女がMCを務めるバラエティ番組は視聴率が良いというジンクスがあり、この番組もその噂通り高視聴率を連発するお化け番組となりつつある。

 番組の流れはこんな感じだ。

 「続いての視聴者の方から寄せられました疑問はこちらです。『人間と宇宙人って仲良くできるの?』えー、この疑問に答えるために、私たちは一般のご家庭に隠しカメラを設置して、父親がオカルトマニアの友人から預かってほしいと頼まれた、という設定で宇宙人を連れてくる、というドッキリを敢行しました。VTR、ウォッチング!」

 このVTRでは、5歳児の息子が宇宙人と心を通わせるような会話をし、とてもハートフルな内容となった。それを見たエリーは目に涙をため、「私も子供が欲しくなっちゃったなあ、あ、でもその前に彼氏か」と自身の独身をおどけた。


 そんなエリーがある日、新聞の一面を飾った。

 エリーが、既婚者であるロックバンド「ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ」のボーカルと不倫をしているというのだ。
 清廉なイメージの強いハーフタレント、エリーの初めてのスキャンダルに、日本国民は目を疑った。エリーは10年前にデビューした時はただのバラエティタレントであったが、今や八本のレギュラーを抱え、そのほとんどで司会を任される人気タレントである。そのエリーが、世間的な知名度が全くない、ロックバンド「ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ」のボーカルと不倫だなんて。

 ボーカルの彼は、音楽活動と同時に複数のバイトをかけもちしているそうだ。そんな切迫した経済状況で、家庭を持ちながら人気タレントと不倫するなんて、ある意味かけもちが好きなのかもしれない。音楽とバイト、家庭と不倫。
 ロックバンド「ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ」の知名度の低さは、その日のスポーツ新聞を見れば明らかだ。彼らの不倫をすっぱ抜いた朝刊の一面の見出しは、「エリー、ゴリラと不倫!」である。
 この朝刊を手にとったサラリーマンの反応は全員同じであった。「え、あのエリーが不倫?しかもゴリラってどういうこと?」「ああ、動物のゴリラじゃなくて、バンド名なのね」「って、このバンド名ダサいな」「エリー意外とセンス悪かったんだな」そう言って鼻で笑う。誰かの没落を見るのは、小市民の数少ない楽しみの一つである。
 学校で、職場で、週刊誌に詳しく書かれたエリーの意外な趣味やバンド名のダサさの話でもちきりになった。

 当日の夕方、報道番組に向けて駅前では撮影クルーたちが、暇を持て余した主婦にインタビューを敢行する。

「私、エリーのこと、最初から胡散臭いと思っていたのよ」

「なんだか性格も悪そうだなって」

「それにしてもゴリラ・ゴリラ・ゴリラってねえ」

「可愛い顔して不倫だなんて、相手の奥さんにはちゃんと謝ったんですかね。不倫をするような人をテレビに出しちゃいけないと思います」

 主婦達は鼻息荒く、カメラに向かってエリーの不倫を糾弾した。普段のストレスを発散するような勢いで。

 

 それから世間の関心は夜9時からの生放送に移っていた。生放送のMCは、もちろんエリーである。彼女の口から謝罪や、不倫の生々しい話を期待し、日本国民がテレビの前でその瞬間を待つ・・・。

 画面上でその番組タイトルがコールされ、出演者たちが笑顔で頭を下げる。カメラが次第にエリーに寄ってきて、彼女の顔をアップに映す。下世話な視聴者は、彼女が泣いてみたり、不倫話をしたりということを期待している。
 いつも通りの様子の彼女は、はきはきと番組を進行する。彼女の茶色交じりの瞳が美しい。
「さて、今回視聴者の方から寄せられました疑問は、『もしも、人気タレントの不倫が発覚したら、日本国民はどんな顔をするのか?』ということで、今回、かなり話題になりましたね。私も今日はドキドキした一日でした。早速VTRの方、見ていきましょう。VTR、ウォッチング!」